「あの日、侍がいたグラウンド」「タレンタイム」「おじいちゃんはデブゴン」

「あの日、侍がいたグラウンド」

2017年のWBC日本代表に密着したドキュメンタリー。

優勝すれば盛り上がったんだろうが、準決勝敗退というのは、撮影していたJ SPORTSクルーにしてみても、残念な結果だったんではないでしょうか。

とは言うものの、びっくりしたのは客席満席ということ(映画の日でも特別興業につき割引なし、1,800円の強気値段設定というのに!)。

そして、客席も野球ファンの男性ばかりかと思いきや、半分は女性だったというところ。

これは、福岡で観たという場所的要因も大きいのかもしれません。女性ファンの多い福岡ソフトバンクホークスのお膝元で、育成出身でありながらこのWBCで大きく名前を上げた千賀投手を始め、武田投手、内川選手、そしてムードメーカーの松田選手と、多くの代表メンバーを選出してますので。

プロレスのドキュメンタリー映画は「ビヨンド・ザ・マット」とか「ガイア・ガールズ」とか、感動モノが多かったので、野球はどうだろう…と思って足を運んだんですが、まぁ、悪くはないんですが、野球はTVでも目にする機会は多いので、TVのドキュメンタリーものの枠を超える感じはなかったです。

ドキュメンタリーと言いつつ、どう編集するかによって作り手のメッセージは伝わってくるもので、

本作では、唯一のメジャーリーガーの青木、不動の四番だった筒香、そしてムードメーカーの松田と菊池が中心に据えられる感じでした。

特に菊池は敗戦に繋がるエラーと、最後の打席に立ったバッターということもあって、ちょっと可哀想でした。

(WBC2013だったら内川だったでしょうね)

「タレンタイム/優しい歌」

「モアナと伝説の海」「ラ・ラ・ランド」「SING」そして「美女と野獣」と、音楽・ミュージカル映画の多かった今年、どれもが素晴らしい出来でしたが、その中でもこれが一番の傑作!

友達の皆さんからお勧めされてて、でも福岡での上映がなくて、「大分とかではやってるのに、なんで福岡でやってないの!?」と思ってたんですが、

ようやく、福岡でも上映されました!

いやもう、皆さんお勧めされるのが分かるくらいの、素晴らしい映画でした。

今のところ、今年ナンバーワン。

個人的には、ラスト、ギターの演奏に二胡が寄り添うシーンで、涙腺決壊しました。

登場人物が多く、さりとて説明的な場面やセリフが全くなく進むので、最初は物語に入り込むのに時間がかかり、「この主催の先生って、日本でリメイクするらマツコ・デラックスやな」とか、映画の本筋とは全く関係ないこと考えながら観ていたんですが、

映画「SING」を髣髴とさせるオーディションの場面くらいから徐々にエンジンが掛かってきて、

そのシーンまでは殆ど音楽らしい音楽が無かったため、「これは楽曲の力か。ははぁ、途上国の映画でありがちな、脚本とかカメラワークとかは粗削りだけど、それを補う魅力があるってアレか」と思ったんですが、

全く違いました。

徐々に映画が進むにつれて、登場人物同士の関係性とか、隠された問題点とかが見えてくるにつれて、これは序盤、何も説明がなかったのではなく、敢えて説明してなかったのだと気付かされるのです。

この映画、何を語って何を語らないか、もしくは何を今見せて、何を今は見せずに隠すことで後半の盛り上げに繋げるのかと言った、取捨選択が本当によく考えられていて見事なんです。

序盤で亡くなったマヘシュの叔父が、映画の後半にきちんと意味をもっていたりとか、本当に唸らされました。

最初は青春×音楽の甘酸っぱい映画かと思ってたんですが―勿論その側面は間違いではなく、それだけの理解であったとしても充分楽しめる映画なのですが―、それ以上に、多民族国家マレーシアの社会を描く、宗教と民族の寛容についての映画であることが観ているうちに伝わってくるので、純粋に映画を理解するには、その知識が必要になります。

そして、一般の観客の殆どは知らないであろうマレーシアのそういった事情につき、きちんと答えてくれるパンフレットの内容が素晴らしく、必ず買うべき一冊になっています。

映画を観終わってからパンフを読みましたが、これはああいう意味だったのかと、全てに納得ができましたから。

<以下、パンフに載っていた、知っておくべき事柄>

・マレー系(イスラム教徒)、インド系(ヒンドゥー教徒)、中国系(仏教徒)のモザイク国家であるが、マレー系の優遇政策が取られており、非イスラム教徒とイスラム教徒が結婚する場合、必ず非イスラム教徒が改宗を迫られる。マヘシュの母が「ムスリムと結婚したら向こうに行ってしまう」と結婚に反対するセリフがあるが、文字通り、向こうに取られてしまうのである。

・結果、非イスラム教徒がイスラムに改宗すると、元のコミュニティでの居場所を失うため、中国人メイドがイスラム教徒であるというのは珍しい。元のコミュニティを失うため、改宗したらイスラム風に名前に改名するケースが多いので、このメイドのように中国名をそのまま名乗るのは更に珍しい。結果、そのメイドを家族同様に受け入れているムルーの一家の革新性を謳っている。

・マレー系の優遇政策が取られているため、進学や就職でも有利になっている。華僑のカーホウがマレー系のハフィズに対して「公平に勝負できない」と突っかかるのは、このことが遠因になっている。

・実際にマレーシアでは過去、隣接するムスリムの結婚式とヒンドゥー教徒の葬式とで小競り合いの喧嘩に発展し、死者まで出た事件があり、その結婚式・葬式の組み合わせを逆にすることで、互いの立場について観客に考えさせるエピソードになっている。

・また、実際に100年以上の歴史を誇るヒンドゥー寺院がマレー系によって破壊された事件もあり、これもマヘシュの母のセリフに反映されている。

・途中、吹奏楽団が演奏しているのはマレーシアの国歌。だれもが足を止めて敬礼する中、一人動き続けるマヘシュは実は…という、伏線になる。

また、これは映画そのものの伏線というわけではありませんが、脳腫瘍で亡くなるハフィズの母に、撮影後に脳溢血で亡くなったヤスミン・アフマド監督自身をつい重ねて見てしまいますが、

この母親役の女優さん自身、往年のマレーシアの大女優だが重い乳癌を患っており、治療費が払えなくなって治療を断念したというニュースを知ったアフマド監督が、寝たきりでもできる役をオファーし、高額のギャラを支払ったとのことです。

「おじいちゃんはデブゴン」

英題が「The Bodyguard」なのに比べたら、随分ふざけた邦題ですが、

なんと原題は「我的特工爺爺(私の特殊工作員ジジイ)」(笑)

むしろ邦題のほうが原題にニュアンス近いし^^;

サモ・ハン・キンポー版の「ボディガード」であり「レオン」であり「グラン・トリノ」。

でも、ラストの切れっぷりと言い、一番近かったのは「96時間」。

香港映画にしてはストーリーラインはきっちりしてて、脚本自体もよく出来てました。

後半の怒りのサモ・ハンのアクションシーンは「これが観たかった!」と観客の溜飲を下げさせるに相応しい出来ですし、CGとかに逃げちゃう最近のジャッキー映画よりも、断然好きかもしれない。

やっぱりカンフー映画っていいなぁ。演じる側も、観る側も、何歳になっても。